【長崎】親の遺体を放置する40代引きこもり…「人と会うのが怖かった。どうしていいか分からなかった」

細く険しい坂道沿いに立つ古いアパートの一室は今、空き部屋となっていた。

 昨年8月、長崎市の住宅密集地で異臭騒ぎがあった。アパート2階の部屋のわずかに開いた窓から、鼻につく臭いが漏れ出す。住民の通報で警察官が駆け付けると、部屋の中で70代女性の遺体が発見された。

 長く定職に就かず、引きこもっていた40代後半の息子が、女性と母子2人で暮らしていた。7月下旬、住民が見掛けたのを最後に、母は消息不明に。この後に倒れたとみられている。

 息子は母親の遺体を自宅に放置したとして、死体遺棄容疑で逮捕された。長崎県警によると、「亡くなったのは知らなかった」と話したという。鑑定留置を経て約2カ月後、長崎地検は息子を不起訴処分にした。

 近隣住民によると、息子はかつて父の仕事を手伝っていたとみられる。父の死後、10年ほど前からほとんど外に出ないようになった。アパートの外に大量のごみを山積みし、近隣とトラブルになっていた。

 母子はSOSを発しなかったのか。地元の民生委員の女性は、行政の支援を受けるよう声を掛けたことがある。「そんなのは絶対、せんでよか」。息子は拒んだという。

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 こうした事件は最近、全国で相次いでいる。昨年4月には福岡県福津市でも80代の母親の遺体が発見され、引きこもり状態にあった60代の息子が逮捕された。

 「引きこもる人たちは自らの存在を、社会にとってマイナスだと捉えている」。引きこもり支援を30年近く続け、「親の『死体』と生きる若者たち」の著書がある山田孝明さん(66)は言う。

 山田さんは逮捕された引きこもり当事者と留置場で面会し、差し入れをしてきた。多くの当事者は「人と会うのが怖かった」「どうしていいか分からなかった」と語る。胸の内では仕事に就かない自らを否定し、誰かに相談すらできない。親の後を追って死のうと思い詰める人もいた。

 「社会に背を向けざるを得なかった人は各地に潜在している。事件は氷山の一角にすぎない」

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 心を閉ざす当事者をどう支えればいいのか。

 北九州市出身の松下哲也さん(46)は20代から30代にかけ、職場の人間関係に疲れて7年ほど引きこもった。昼夜逆転の生活。同居する家族との会話も減り、母に「おまえのせいだ」といつも怒鳴っていた。

 前を向くきっかけはNPO法人青少年サポートセンター「ひまわりの会」の訪問支援だった。松下さんの父から頼まれた村上友利会長(75)が1年8カ月間、自宅を毎月訪ねて声を掛けた。話すのは野球やテレビの話題。たわいのない内容でも、家族以外と会話する唯一の時間は新鮮だった。

 「どうなってもいい気持ちと、どこかで助かりたい気持ちが半々だった」。実は、会を取り上げた新聞記事を切り抜き、父に見せたのも松下さん自身だった。

 「将来のことを考えたら」。「友だち」と思えるようになった村上会長の言葉に背中を押され、家を出た。今は1人暮らしをしながら会の活動を手伝う。

 村上会長はこれまで40人を、引きこもり状態から外に出した。「環境を変えたくてもタイミングをつかめず、親や社会のせいにしている。けれど、救いを待つ気持ちもある。全てを引き受ける覚悟で、粘り強く訪問するしかない」

2019年12月16日 17時0分 西日本新聞
https://news.livedoor.com/article/detail/17534412/
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