【地方創生サクラ】「3時間で2千円。移住を考えている人のていで参加して」…自治体の移住相談、受注企業が現金で動員 誓約書も

東京一極集中の是正に向け、地方自治体が東京都内で開いている移住相談会で、一部の参加者に現金が支払われていたことが分かった。相談会の運営は多くの自治体が民間企業に外注するが、複数の受注企業が不適切な参加者募集への関与を認めた。複数の相談会に参加した男性は本紙の取材に「求人サイトで応募した。移住に関心があるふりをして、現金を受け取った」と証言した。

移住促進は安倍政権が二〇一四年に掲げた地方創生の目玉政策で、国は五年連続で一千億円規模の予算を確保。各自治体は、その交付金を活用するなどして相談会を開いている。

相談会を受注した企業は日時や会場を調整する。一部の企業は、求人サイト運営や人材派遣を担う下請け企業に「人集め」を依頼していた。

相談会を運営する企業の担当者は「テレビ番組のエキストラを募る求人サイト運営企業に人集めを頼んだ」と説明。参加者への現金支給は「交通費との認識だった」と話した。移住希望の意思は下請け企業が確認していると主張した。

一方、下請け企業の担当者は「移住に興味があるか、ヒアリングしていなかった」と明言。別の下請け企業は、現金を受け取ることを自治体側に漏らさないよう徹底し、参加者に誓約書を書かせていた。

本紙が入手した下請け企業の内部文書では、関東地方や東海北陸地方などの各自治体から受注した相談会を一覧で示し、参加者の数を「動員」と明記。一人当たりにかかる費用を「単価」と表現していた。一七年七月~一八年九月の相談会で、少なくとも二千人が動員された疑いがある。企業側は現金を支給してでも多くの人を集めることで受注の実績を上げることを狙ったとみられる。

求人サイトを通じ、五回以上の相談会に出た男性は「小遣い稼ぎ。企業の担当者からは事前に『移住に興味があるような質問をして』と頼まれた」と明かす。運営先は都内の二企業で、支給額は「三時間で二千円」など。後日、銀行口座振り込みで受け取った。企業からは事前に「先方は人数合わせで来ているとは思っていない」「転職(移住)を考えている人のていで参加を」などの注意を促すメールを受け取っていた。

外注した相談会を巡り、自治体職員からは「参加者が全く質問せず、黙っていた」「回収したアンケートの連絡先がデタラメ」などの情報が相次いだ。こうした事態を受け、移住支援に取り組むNPO法人・ふるさと回帰支援センター(東京)は八月、全国四百余りの会員自治体に「詐欺まがいの行為に加担しないように」と文書で注意喚起し、実態の調査に乗り出した。

高橋公(ひろし)理事長は取材に「各方面への聞き取り調査を進める。移住希望者に寄り添う相談業務ができる環境を守っていく」と話した。

(前口憲幸)

◆都会に還流 違法な公金支出にも

<東京大の金井利之教授(自治行政学)の話> 交付金を申請しないと国から冷遇されると恐れて、自治体にはやらされ感がまん延している。その一つがアリバイとしての移住相談会だと言える。そのため、民間企業への丸投げが起きる。東京一極集中の是正は大切だが、自治体間で移住競争させたのが間違い。国から自治体を通じ、都会の企業に交付金が還流している。相談会の「サクラ」が事実なら、違法な公金支出になりかねない。

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2019年12月16日 朝刊 中日新聞
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